王さんの餃子講座

中国東北区(遼寧省)出身の王さんに餃子の作り方を教わったので、そのレシピをメモしておく。「三鮮餃子」と「ピーマン餃子」だ。三鮮(サンシン)とは、三つの新鮮なもので彩りも三色を表している。ピーマン餃子は日本では珍しいものだ。

準備しておくもの

■広めのまな板・麺棒(15cm)・ボール・フライパン・鍋・皿・エプロン
■生姜・小麦粉(強力粉)・サラダ油・塩・胡椒・味の素
■三鮮餃子: えび・にら・煎り玉子
■ピーマン餃子: ピーマン・合挽き肉

小麦粉をこねる

(1) 大きめのボールに小麦粉(強力粉)を入れる。強力粉9に対し、薄力粉1を混ぜてもいい。
(2) 30度のぬるま湯にひとつまみの塩を溶かしたものを少しずつ注ぎ、掌でこねる。
餃子を作る上で、一番重要なのがこの工程である。この水の量が多すぎても少なすぎてもいけない。重要な要素である水の量は、傍から見ていた私には表現できない。経験者にしかわからない。溶かす塩の量も適当、おそらくかなり少量である。これは皮に塩味を付けるというより、皮の粘度と強度を増し、破れにくくするためだそうだ。
こね方も、表現し難いが、粘土をこねるようにする。右手でボールを固定し、左手の掌の親指の付け根辺りに重心を置き、力強くこねる。少しずつボールを回転させ、それを繰り返す。やきものをする人なら、菊揉みの要領である。
(3) こね終わったら、まるくして、乾燥しすぎないように表面に水を打っておく。水を掌に付け、全体をなでるようにして濡らしておく。そして、ボールにはラップして、しばらく寝かせておく。
インターネット情報によると前日から寝かせておくのがいいらしいが、王さんは2〜3時間でいいと言う。少なくとも具を作るまでの間の1時間くらいは寝かせておきたい。

三鮮餃子の具を作る

(1) にらは、葉の幅が狭い、天日で育ったものがいい。ハウスものは幅が広く、味に深みがないらしい。5〜6mmの長さで刻む。刻んだにらは絞らなくていい。絞ろうとしても徒労に終わるだろう。
(2) えびは大正えびでもブラックタイガーでもいい。赤い色も若干出したいので、背わたは若干残るように洗い、ミンチ状に刻む。えびは、無駄な水分を軽く絞っておく。
(3) フライパンで煎り玉子を作る。下味はつけないし、かき混ぜるのはほどほどでいい。若干サラダ油を多めにし、焦げない程度にとどめる。できたらまな板に移し、冷めたらこれも小さく刻む。
(4) 生姜は、2mm角くらいに刻む。(この生姜はピーマン餃子の具にも混ぜる。)
(5) ボールに、にら・えび・煎り玉子・生姜を移し、サラダ油を加えて混ぜる。サラダ油は煎り玉子の油分を考慮して、ほんのり粘度が出る程度にする。
(6) 塩・胡椒で味を付ける。塩は、赤穂の荒塩などはだめ。粒子の小さい食卓塩を使うこと。胡椒も荒挽きでないものがいい。(味の素は入れないこと)

ピーマン餃子の具を作る

(1) ピーマンは3〜4mmの大きさで刻む。刻んだピーマンは両手できつく絞って、水分をかなり切っておくこと。
(2) 挽き肉は、牛でも、牛・豚の合挽きでもいい。ちなみに王さんは羊が好きだ。今回は牛・豚の合挽きを使用した。
(3) ボールに、ピーマン・挽き肉・生姜を移し、サラダ油を少し加えて混ぜる。ピーマンはぽろぽろしているので、意外と粘度は感じない。
(4) 味の素を少々振る。(三鮮餃子には味の素は入れないこと。素材の少ないピーマン餃子にのみ、味の素を加えて味に広がりを出させる。)
(5) 塩・胡椒で味を付ける。

餃子の皮を作る

(1) 寝かせておいた皮のもとを、打ち粉をしたまな板の上に取り出し、両手の掌で菊揉みの要領にて本格的にこねる。白い粉状の粒が決して残らないくらいに丁寧にこねる。
(2) 包丁にて、皮11〜13枚分に相当する量を切り取る。それを両手で直径2cmくらいの棒状にし、まな板と掌の間で転がし、均等な円柱状を目指す。
(3) 包丁にて、皮1枚分の大きさに切る分ける。幅が8〜9mmくらいであろうか。
このサイズでは、日本人が普段一般に食す焼き餃子より小さめの餃子となる。水餃子は、焼き餃子よりほんの少し皮が厚く、小さめにするのがいい。一口サイズよりちょっと大きく、上品に食べるとちょうど2口でおさまるサイズと表現できる。この2口で食べるサイズというのは重要である。なぜなら、一口目で齧った切口から具の色合いを見て取ることで、三鮮が何であるかを目で楽しめる。
(4) 刻ざんだものを順次、麺棒で伸ばす。あまり打ち粉はしないこと。包丁の断面はくっつきやすいので、粉を振るった掌で叩き、丸い煎餅状にする。この時点で直径は3.5〜4cmくらいである。
(5) 左手で、皮の端を摘み、右手で麺棒を転がす。麺棒は手前から皮の中心に向けて押すときに力を加える。引くときは力を加えないこと。麺棒は皮の中心あたりまで転がし、行き過ぎないこと。そして、左手で皮を半時計回りに少し回転させ、また麺棒を転がす。これを繰り返し、皮を直径7〜7.5cmくらいまで伸ばす。厚みの平均は1mmもない。
ここで重要なのは、包みやすいように完全な円ではなく、やや楕円形にしておくこと。そして、中心部分をやや厚めにしておくこと。(理系の方は、銀河系の形をイメージするといい。)麺棒を転がすときに皮の中心より数mm手前で折り返すことで、中心部分に厚みができる。中心部を厚くするのは包んだときに、くっつけ合わせて二重になる部分と皮の量が均等になるようにするためだ。

具の味を整える

(1) 2枚ほど皮ができたら、ぞれぞれの具を包んで、フライパンで焼き、実際に食べてみて味を確認する。そして具の塩加減を最終的に整えておくこと。

餃子を包む

(1) 左掌に皮を置き、スプーンですくった具を乗せる。具は少なめにすること。焼き餃子よりはかなり少ない。あくまで水餃子は皮がメインの料理と心得るべし。
また、折り返してくっつける部分に具が触れないようにすること。具にからめた油が付くと折り返してつまんで貼り合わせたつもりでも、あとで茹でるときに離れてしまうからだ。
(2) 皮を半分に折り返し、端から丁寧に摘んでくっつける。このとき、ひだを折りこむ必要はない。
(3) 半円形の弧の端を、左手の親指と人差指の間に挟み、人差指を半円状に曲げ、餃子の弧の部分を人差指の弧に重ねるようにつまむ。そして、右手を添え、右親指で左人差指の半分を覆うようにつまむ。その左親指・左人差指・右親指でつかんだ餃子をちょっと内側に押しつぶすようにぎゅっと力を加える。これで、指の関節の皺が餃子のひだとなり、餃子らしいふくらみが一瞬にしてできる。習得するべき最高の技である。
(4) できた餃子は、打ち粉をした皿に、くっつかないように並べておく。

餃子をゆでる

(1) 鍋に6分目の湯で、火力は中火。湯には塩などは一切入れないこと。鍋の大きさと湯の量に合わせて、適当な数の餃子を茹でる。
(2) 茹でる時間は、差し水を2回するまで。まず沸騰したところに餃子を入れると、温度が下がり餃子は鍋底に沈んだ状態になるが、再沸騰して餃子が泳ぎ出したら、差し水をする。これを2回繰り返して、2回目に餃子が浮いて泳ぎ出したら、掬い上げる。3〜4分くらいで茹で上がる。
(3) 掬い上げた餃子は水を切って、皿に盛り付ける。にらやピーマンの緑が透けて見える色合いでいて、表面には白い光沢があり、全体にワンタンのように波打った感じに仕上がる。
茹でた湯に油が浮いているようでは、自らの技術が未熟であると悟るべし。餃子がきちんと包めていれば、油はまったく浮かない。王さんもきっと母・姑にそう言われてきたに違いない。

餃子をたべる

(1) 水餃子は何も付けずにそのまま食べてもいいし、酢と醤油で食べてもいい。好みによりにんにくを混ぜてもいい。ラー油もお好みだが、焼き餃子ではないので、水餃子に敬意を払い、敢えてラー油は控えるべきである。
(2) 食べきれなかった水餃子は、直ちに冷凍にしておく。後日、電子レンジで温め、フライパンで焼き餃子にするのがいい。これは、中国でも一般的なやり方であるらしい。王さんは、この翌日に食べる焼き餃子が結構好きなようだ。日本における「昨晩作り過ぎたカレーを今朝も食べたら結構おいしかった」と同等の感じであろうか。

Episode 1:

王さんは、肉は、羊・牛・豚の順に好きで、鶏はちょっと苦手。野菜は、きゅうり・トマト・にら・セロリ・ピーマンが好き。上記では、ピーマン餃子だが、ピーマンをセロリで置きかえれば、セロリ餃子になる。白菜・キャベツ・にら・しいたけ・にんにくなどごちゃごちゃ入れるのは、性分に合わないらしい。材料を抑えることで、餃子のバリエーションを増やしているとも言える。私も、にらの味、ピーマンの味など、はっきり主張のある餃子の方がいいと思う。

Episode 2:

中国では、小麦粉に強力・中力・薄力の区別はないらしい。少なくとも、遼寧では小麦粉は秋に会社から社員に支給されるらしい。王さん夫妻は、共に瀋陽市の環境局に勤めているので、他の人とは若干状況が異なるかもしれない。一人50kgが支給され、夫婦で100kgになる。春には、虫も湧くのでその時期に大半をレストランに売るらしい。そんな状況からわかるように、中国では小麦粉に特に種類はない。市販されている小麦粉にも、上白色、白色、黄色といった色についての区別のみであるらしい。では、大量に支給される小麦粉は、日本で言うところの強力・中力・薄力のどれにあたるのか。おそらく、強力〜中力の範囲だろう。