FLの次は、TMとTAのどちらを目指すべきか。

JSTQB FLに合格された方が、次のステップとしてTM(テストマネージャ)やTA(テストアナリスト)を目指す場合、どのように学習すればよいか悩まれることが多いようだ。TMやTAに関する市販本は国内にはないし、講習やセミナーといったものもまだ無い。シラバスを読む以外にどんな学習方法があるのか、よく問い合わせがある。その回答をまとめておきたい。

【1】FLの次は、TMとTAのどちらを目指すべきか

TMとTAの受験資格は経験が3年以上だ。それをクリアできているという前提とする。TM試験は、トライアルが2010/08から始まり第5回が2015/08に行われた。次回は第6回が2016/08に行われるだろう。TA試験は、2016/02に第1回が始まったばかりだ。JSTQBは、当面、TMとTAを半期ごとに繰り返すのではないかと推測する。次回TAは、早くて2017/02だ。ただ、試験問題を評価し、次回の試験問題を作成するのは大変な労力なので、1年以上間隔が開く場合もあるだろう。

FL--> TA--> TMの順に受けることを勧めたいが、タイミングよく試験が実施されるとは限らない。直近で実施されるTAまたはTMに照準を合わせるしかない。FLに合格した半年後の試験を狙うべきである。どちらも3か月間学習すれば、十分に間に合う。これからFLを受けられる方は、FL--> TA--> TMの順で目指してほしい。FLに合格して、半年後にTMに合格した人は結構多いことが分かっている。おそらくモチベーションが持続できるからだろう。半年以上の期間を空けると効率がよくない。

【2】半年後にTMを受ける場合

TMに関する国内の市販本はないし、FLと違って講習やセミナーも見当たらない。テスティング中級コース(マネージャ編)のみと言っても過言ではない。TMのシラバスの50%はプロジェクトマネジメントの知識と言えるので。PMBOKなどの入門書は参考になるかもしれない。

TM試験は、シラバスベースの知識問題が60%、与えられたシナリオでTMとして判断する問題が40%といった配分である。シラバスベースの問題は配点が少ないので、実質でシラバスベース50%、シナリオベース50%と考えるべきである。シナリオベースの問題は、自身の開発やテストの経験や一般論から容易に解答できるものが多い。一方、シラバスベースの問題は、シラバスを読み込んでいないと4つの選択肢を絞り込みできない。シラバスの読み込みは必須である。シラバスを十分に読み込んでおけば、シナリオベースの問題でも出題者の意向が察知できるようになる。

※以前に書いた「JSTQB Advanced第1回試験を分析してみた」も参照ください。

【2-1】シラバスで学習する場合のおすすめ

JSTQBシラバスは、誤訳も多いのでそれを前提とする必要がある。シラバスが間違っているだけでなく、間違った知識のまま出題される可能性もある。ISTQBの原本と突き合わせて学習すべきだ。公開されたレビューメモなども参照してほしい。

私は、自身専用のシラバス解説書を作成することを推奨している。私自身も実践している。単にシラバスを読むだけでなく、シラバスに気づきを書き込んでいくのだ。誤訳の箇所を指摘して訂正したり、理解できていなかった部分に自分なりの解説を加えたり、出題されそうな部分に想定問題を作ってみたりする。ダウンロードしたPDFのシラバスからテキストを抽出(AcrobatReaderに機能あり)して、WORDのシラバスを作成するのだ。手作業も多いが紹介しておく。

(1) プレーンテキストの段階で、不要なヘッダーやフッターを削除する。削除しきれない場合は、目立つ文字列に置換して手作業で削除する。

(2) 改訂履歴、前書き、目次、参照書籍、索引は思い切って削除する。そして、この段階でWORDに貼り付ける。

(3) 見出しを整える。やっとPDFのシラバスがWORDとして体裁が整った状態となる。

(4) 箇条書きに変更できる部分を書き換える。シラバスはだらだらと文章が長い。要素が並列されている部分は、箇条書きに変更しておく。非常に読みやすくなる。英語の「x1,x2,x3 and x4」などの文章はJSTQB係り受けを間違って訳している箇所が多い。それを箇条書きにすることは学習の第1段階と言える。JSTQBの訳がおかしい/理解しにくいと感じたら、かならずISTQBの原本に当たってみるようにしたい。

(5) 学習目標を、各節・各項に移動する。シラバスのK2,K3,K4の学習目標は非常に重要だ。それに基づいて出題される。K2,K3,K4の学習目標を各節・各項に配分しておき、各節・各項を読むときに学習目標を意識しながら読める構成に変更しておくのだ。

(6) レビューメモなどを参照して誤った箇所を修正しておく。ISTQBの原本と突き合わせる作業をゼロからやると、おそらく1か月を無駄にする。先人の情報を活用してほしい。

(7) 適宜、コメントを追記する。ここからが学習の第2段階である。コメントは、字下げしてフォントの色を変えるなどで工夫し、オリジナルのテキストをできるだけ壊さないようにする。

【2-2】サンプル問題や市販本について

JSTQBが公開しているサンプル問題は数問しかない。ISTQBが公開しているサンプル問題は40問ある。さらに海外のいくつかのサイトでは模擬問題も公開している。それらで学習するとよい。

出題者は、これらのサンプル問題を参照していることは間違いない。同じ問題は絶対に出ないが、類似した問題として出題されたものは確認できている。

※有力な市販本としては、「Advanced Software Testing - Vol. 2, 2nd Edition: Guide to the ISTQB Advanced Certification as an Advanced Test Manager」がある。

【2-3】TMシラバス以外のソースの利用について

JSTQB(TM)のシラバスを読み込むことは必須だが、それ以外の関連するシラバスや用語集の用い方について問い合わせがあったので追記しておく。

(1) JSTQB(FL)のシラバス:あるタイミングで復習する際に再度、眺めればよい。また、TMシラバスの内容がFLでどう書いてあったかを確認する程度で十分である。

(2) JSTQB(Advanced level 概要):特に読む必要はない。「Advanced Levelテストマネージャ試験は、180分で65問。合格ラインは65%。単純計算では、合格には42問以上の正答が必要。65問で115点満点。配点は1問ごとに1点-3点の範囲で重みづけされている。K2問題は1問1点、K3問題は1点-3点、K4問題は2点-3点となる」ということを把握しておくだけでよい。

(3) JSTQBの用語集:特に印刷して読んだりする必要はない。不明な用語に出くわしたら、http://squaring.jp/term/ で参照ください。中級コース(マネージャ編)では必要な用語は都度取り上げている。

(4) JSTQB(TA)のシラバスやISTQB(TTA)のシラバス:TMの受験者は、あえて読む必要はない。読まなくてもTMのシラバスで完結している。TAの受験者はTMのシラバスを読んでおくと効果的だが、逆は必要ではない。

(5) 標準や技法の詳細情報:TMのシラバスで大体の概要が把握できたら、次の段階として、個々の標準や技法をもう少し深堀りして学習しておく必要がある。例えば、以下のような項目については、ネット情報などで調べて理解を深めておくこと。TMの第1回試験では、見積り計算、FMEA、TPIについて、シラバス以上に踏み込んだ内容で出題されていた。
IEEE 829-1998 ソフトウェアテストドキュメント
IEEE 829-2008 ソフトウェアテストドキュメント
IEEE 1028 レビュー
IEEE 1044 不正
・TPI Next
・STEP
・CTP
CMMI/TMMi
・故障モード影響解析(FMEA)
・コスト便益分析(cost benefit analysis)
・3点見積り

(6) プロジェクトマネジメントの入門書:品質コストやリスクマネジメントは必須です。この辺りの知識はPMPPMBOKの知識であり、プロジェクトマネジメントの領域になる。PMPPMBOKの入門書など読んだことがないなら、読んでおくと理解が早い。

【3】次回TAを目指す場合

TAもTMと状況はほぼ同じで、シラバスに沿った国内の市販本はないし、講習やセミナーも見当たらない。テスティング中級コース(アナリシス編)のみと言ってよい。

TA試験は、シラバスベースの知識問題が30%、技法の適用問題(シナリオベースの問題)が70%といった配分である。シラバスベースの問題は配点が少ないので、実質でシラバスベース20%、技法80%と考えるべきである。シラバスを読まなくても技法だけ深く理解できていれば大丈夫と言える。シラバスベースの問題は、シラバスを読み込んでいないと4つの選択肢を絞り込みできないので、20%といえども捨てる訳にはいかない。シラバスでの学習では、前述のように自前のシラバス解説書を作成するとよいだろう。

TAは、TMに比べて、学習しやすい。教材や勉強会などもあり、ネット情報も豊富だ。技法の実践は、シラバスを読んだだけでは「0点」だと考えてよい。市販本やネット情報で、各技法の適用方法を理解する必要がある。技法についての市販本は、探せばいろいろあるようだが、シラバスで取り上げられる技法を1冊で網羅するようなものはまだない。また、社内や社外でのテスティングの勉強会は結構行われているようだ。それに参加するのも良いだろう。最近では、WACATE(ソフトウェアテストワークショップ)というグループでの勉強会が目立つ。ネットで検索しても彼らのPPTがやたらとヒットする。「ソフトウェアテスト技法ドリル―テスト設計の考え方と実際」というドリル本を推奨していることが分かった。

JSTQBが公開しているサンプル問題は、TAもTMと同様で、数問しかない。ISTQBが公開しているサンプル問題は40問あり、さらに海外のいくつかのサイトでは模擬問題も公開している。また有力な市販本としては、「Advanced Software Testing - Vol. 1, 2nd Edition: Guide to the ISTQB Advanced Certification as an Advanced Test Analyst」がある。

※以前に書いた「第1回のテストアナリスト試験を受けてきた」も参照ください。

テスティング中級コース(アナリシス編)は、シラバスの網羅性、サンプル問題の網羅性は高いので安心できる。第1回のTA試験で判断するかぎり、ほぼ十分な網羅性だった。