BABOK 2.0 #6 知識領域の概要

BABOKの知識領域をもう少し詳細に調べてみた。とはいえ、単に概要を訳しただけで、タスクの詳細(タスクの内容、入力/出力作業成果物、適用技法)についてはまだ踏み込めていない。以下の知識領域と用語で統一しておく。


【2】ビジネスアナリシスの計画と監視(Business Analysis Planning and Monitoring)
【3】要求の管理とコミュニケーション(Requirements Management and Communication)
【4】引き出し(Elicitation)
【5】エンタープライズ分析(Enterprise Analysis)
【6】要求分析(Requirements Analysis)
【7】ソリューションの評価と妥当性確認(Solution Assesment and Validation)
【8】基礎能力(Underlying Competencies)

【2】ビジネスアナリシスの計画と監視(Business Analysis Planning and Monitoring :BAP&M)

ビジネスアナリシスの活動を計画すること、要求に応じてビジネスアナリシスのアプローチを変更すること、ビジネスアナリシスのプラクティスが効果的であるか評価して継続的に改善することが目的だ。「ビジネスアナリシスの計画と監視」の知識領域では、ビジネスアナリシスの成果を完全なものとするために必要な活動をどのように決定するかを説明している。利害関係者の識別、ビジネスアナリシス技法の選択、要求管理に適用するプロセス、作業成果物への必要な変更を許可するための作業進行をどのように評価するかといったことを含んでいる。ビジネスアナリシスの計画は、プロジェクト計画の主要インプットであり、プロジェクト管理の責務には、ビジネスアナリシスの活動を組織化し、プロジェクトチームでのもろもろのニーズを調整することを含んでいる。


【2-1】BAアプローチの計画 (Plan Business Analysis Approach)
【2-2】ステークホルダ分析の指揮 (Conduct Stakeholder Analysis)
【2-3】BA活動の計画 (Plan Business Analysis Activities)
【2-4】BAコミュニケーションの計画 (Plan Business Analysis Communication)
【2-5】要求管理プロセスの計画 (Plan Requirements Management Process)
【2-6】BA実績の管理 (Manage Business Analysis Performance)
アプローチには、ウォーターフォールアジャイル、シックスシグマなどがある。ビジネスニーズや課題を解決するにはどのアプローチが適切かを判断する。ビジネスニーズやソリューションに最も影響を受ける/与える利害関係者を特定し、誰から要求を引き出すかを明確にしておく必要がある。プロジェクトの立ち上げ時の活動として一般的な内容だ。

【3】引き出し(Elicitation :E)

利害関係者のニーズを調査し、識別し、文書化することが目的だ。「引き出し」の知識領域では、利害関係者とともに、彼らのニーズが何であるかを見出し、彼らのニーズを正しく完全に理解するためにどのように作業するかを説明している。


【3-1】引き出しの準備 (Prepare for Elicitation)
【3-2】引き出しの指揮 (Conduct Elicitation Activity)
【3-3】引き出し結果の記述 (Document Elicitation Results)
【3-4】引き出し結果の確認 (Confirm Elicitation Result)
引き出しのための技法にはブレーンストーミング、ドキュメント分析、フォーカスグループ、インタフェース分析、インタビュー、観察、プロトタイピング、要求ワークショップ、サーベイなどがある。それらの技法を単に知識としてだけでなく、実際にどれだけ効果的に実施できるかがビジネスアナリシスの成否になる。SWEBOKでいうなら要求抽出と仕様化の一部(文書化)の範囲になる。

【4】要求の管理とコミュニケーション(Requirements Management and Communication :RM&C)

コミュニケーションはすべての知識領域で必要であり、要求管理にとって重要だ。承認されたソリューションと要求スコープを管理すること、利害関係者がビジネスアナリシスの作業成果物にアクセスできるようにすること、要求を準備して利害関係者へ伝達すること、要求をいつでも再利用できるようにエンタープライズとしての一貫性と効率性をファシリテートすることが目的になる。「要求の管理とコミュニケーション」の知識領域では、競合、課題、変更をどのよう管理するか、また利害関係者とプロジェクトチームがソリューションスコープでの合意にどのように従うかを説明している。プロジェクトの複雑さと方法論に応じて、正式な承認やベースラインの管理、異なる要求文書バージョンの追跡、オリジナル要求(origination)から実装要求(implementation)への追跡が求められる。


【4-1】ソリューションスコープと要求の管理 (Manage Solution Scope & Requirements)
【4-2】要求トレーサビリティの管理 (Manage Requirements Traceability)
【4-3】再利用のための要求維持 (Maintain Requirements for Re-use)
【4-4】要求パッケージの準備 (Prepare Requirements Package)
【4-5】要求コミュニケーション (Communicate Requirements)
SWEBOKでいうなら要求管理、要求追跡の範囲だ。要求を利害関係者と共通理解するタスクが要求コミュニケーションとして取り上げられている。対話、文書、プレゼン、ディスカッションを含んでいて、簡潔で適切で効果的なコミュニケーションのスキルが要求される。

【5】エンタープライズ分析(Enterprise Analysis :EA)

戦略的なニーズとゴールに合致したプロジェクトを識別し、提案/企画することが目的だ。「エンタープラズ分析」の知識領域では、どのようにビジネスニーズを捉え、ニーズの定義を洗練化/明瞭化するか、またそのビジネスの実現が可能であるソリューションスコープをどのように定義するかを説明している。問題の定義と分析、ビジネスケースの開発、フィージビリティスタディ、ソリューションスコープの定義を含んでいる。


【5-1】ビジネスニーズの定義 (Define Business Need)
【5-2】能力ギャップの査定 (Assess Capability Gaps)
【5-3】ソリューションアプローチの決定 (Determine Solution Approach)
【5-4】ソリューションスコープの定義 (Define Solution Scope)
【5-5】ビジネスケースの定義 (Define Business Case)

BABOKはエンタープライズ分析のためにあるといっても過言ではない。とはいえ、タスクとしては要求開発の一般的な流れで記述されている。

ビジネスケースの定義とは、組織が提案されたソリューションの投資対効果を正当化できるかどうかを決定するための材料、定量的/定性的な利益、コストと時間の見積もりなどを明確化することだ。要求分析での妥当性確認に相当するものなので、個人的にはもっとエンタープライズ分析と要求分析は対照的に整理されているほうがよかったように思う。

【6】要求分析(Requirements Analysis :RA)

特定スコープでビジネスニーズを正確に定義できるだけの十分な詳細度になるように、表明された要求を段階的に精緻化する、要求がビジネスニーズに合致しているか妥当性確認する、要求が適切な品質であるか検証することが目的だ。「要求分析」の知識領域では、ビジネスと利害関係者のニーズに合致したソリューションをプロジェクトチームが設計・構築できるように、ソリューション定義をどのように段階的に精緻化するかを説明している。それによって、利害関係者の表明した要求が正しいものであることを分析できる。ビジネスの現状を識別し、改善が推奨できるかを評価し、最後に成果に対して検証と妥当性確認が行える。


【6-1】要求の優先順位付け (Prioritize Requirements)
【6-2】要求の構造化 (Organize Requirements)
【6-3】要求の仕様化とモデル化 (Specify and Model Requirements)
【6-4】前提と制約の決定 (Define Assumptions and Constraints)
【6-5】要求の検証 (Verify Requirements)
【6-6】要求の妥当性確認 (Validate Requirements)
SWEBOKでいうなら、勿論、要求分析、仕様化、妥当性確認の範囲だ。BABOKでは、要求検証を行ってから妥当性確認を行う手順が明示されている。CMMIの表現に近い。要求の検証では、要求が正しく定義され、受け入れの品質を満たしていることを検証し、満たさない場合は修正を行う。最終チェックでは、ビジネスアナリストと利害関係者で公式レビューを行う。要求の妥当性確認では、要求がビジネス価値、利害関係者のゴール・目的・ニーズに合致しているかを確認する。

【7】ソリューションの評価と妥当性確認(Solution Assesment and Validation :SA&V)

ソリューションが確実に戦略的ニーズに合致し、要求を充足しているかを評価することが目的だ。「ソリューションの評価と妥当性確認」の知識領域では、提案されたソリューションをどのように評価するかを説明している。ビジネスニーズに最もフィットするソリューションを決定し、ソリューションのギャップと問題点を識別し、必要なワークアラウンドやソリューションの変更を決定する。またソリューションが所期のニーズに合致しているかをプロジェクト実績と効果からどのように評価するかを説明している。


【7-1】提案されたソリューションの査定 (Assess Proposed Solution)
【7-2】要求の割り付け (Allocate Requirements)
【7-3】組織準備状況の査定 (Assess Organizational Readiness)
【7-4】移行要求の定義 (Define Transition Requirements)
【7-5】ソリューションの妥当性確認 (Validate Solution)
【7-6】ソリューション実績の評価 (Evaluate Solution Performance)

【8】基礎能力(Underlying Competencies)

基礎能力は、6つのカテゴリに分類されている。

カテゴリ内容
【8-1】分析思考と問題解決の能力 (Analytical Thinking and Problem Solving)エンタープライズ分析や要求分析のタスク実行において必要な5つのスキルが挙げられている。
■創造思考(問題解決のための新しいアイデアの創出)
■決定分析(意思決定をするための基準の理解)
■学習(ビジネス領域と組織利益の学習)
■問題解決(問題を定義し、真の原因を追及し、解を見出す)
■システムシンキング(組織内の人・プロセス・技術の相互作用で全体としてシステムを構成していることの理解)
【8-2】行動特性 (Behavioral Characteristics)倫理(Ethics)、Personal Organization(仕事の段取りと処理)、信頼性(Trustworthiness)の3つの行動特性(コンピテンシ)を挙げ、知識だけでなく適切な行動を伴うことができるかをポイントとしている。
【8-3】ビジネス知識 (Business Knowledge)ビジネス理論と実践についての知識、業界知識、組織知識、ソリューション知識は、当然必要である。
【8-4】コミュニケーションスキル (Communication Skills)ビジネスアナリスト個人として情報を他者に伝達するスキルであり、話術(口頭でのコミュニケーション)、ティーチング(視覚学習、聴覚学習、体験学習などの活用)、文書力の3点が挙げられている。
【8-5】インタラクションスキル (Interaction Skills)コミュニケーションスキルを個人に対するヒューマンスキルとし、集団に対するヒューマンスキルをインタラクションスキルとして定義しているようだ。ファシリテーションネゴシエーション、リーダーシップと影響力、チームワークの3点で説明されている。
【8-6】ソフトウェアアプリケーション活用能力 (Software Applications)MSオフィスなどの汎用ソフト、また図解ツール・モデリングツール・要求管理ツールなどを自在に使いこなせる知見とスキルが必要だ。