辞書を読む

実は、辞書を読むのが人に言えない趣味なのだ。だったのだ。最近は辞書を読むことはおろか、引くことさえほとんどない。全てGoogleとBookShelfに頼っている。以前は収集していたし、読んでいた。大き目の辞書では大辞林第1版、広辞苑第4版、現代漢和辞典。小さいものは数しれず。さすがに「KY式日本語」は買うつもりはない。大修館、おい大修館、こんなふざけた辞書出すんじゃない。

読んだからといって、当然覚えている訳ではないし、使いこなせる訳ではない。1つの修行としてひたすら読むだけだ。とくに大辞林第1版はまちがいだらけの辞書で、それを見つけるのがまた楽しみだった。たとえば以下のようなものだ。

「すなせっちん」の中の解説に「そくじょう」が出てくるが「そくじょう」の見出しはない。閉じていないのだ。「みかどのつかさ」をひくと「いし」を見ろ、「いし」をひくと「みかどのつかさ」をみろと、それだけしか書いてない。閉じすぎなのだ。「すずきぼうちょう」の解説が何度読んでも不明。すずきぼうちょうの内容を知っている人なら理解できるが知らない人は理解できない。辞書になってない。広辞苑で確認してやっと理解した。「しゅっせうお」の説明が魚ごとで矛盾していて、同じ魚が25〜50cmとか別のところで50cm前後と記述されていた。わらさだったか、いなだだったか失念。というように他にもたくさんあったが思い出せない。

ちなみにその後、大辞林第2版を買って確認したが、私が気づいたものはすべて修補されていた。

辞書を読んで得したなと思うことが一度ある。むかし「たほいや」という広辞苑を使った深夜番組があった。いとうせいこうが司会だった。1日4問なのだが全問正解できた日が1回だけあった。日本全国でも数人しかいないはずだ。実際には4択だったので1/256の確率ではあるが、そういうことではない。その日の4つの単語が全て自信をもって分かったのだ。たしか「さいたづま」「わささ」「ちやり」「ししし」などだったと思う。正確には思えていない。

私の特徴的な辞書の引き方をお教えしよう。

①1つの単語を引いて、その意味に感動したら、その単語に赤鉛筆
  で線を引く。(どうでもいい単語には引かない。)
②そのページでもう1つ感動できる単語をどれでもいいので探し出
  して、同じように単語に赤鉛筆で線を引く。
③後日、またその同じ単語を引くことがあったら、今度は四角で囲
  む。さらにもう1つ別な単語をそのページから探して線を引く。
④これを延々と繰り返していくと、大体どのページにも赤い線が2
  つ以上にはなる。

手順は以上だ。単にその場限りで意味を調べるだけでは語彙が増えないので、そのように習慣づけたのだ。今でも線は引かないでも、引いた単語の周辺でこれはという感動を与えてくれる新たな単語をもうひとつ見つけるまでうろうろしてしまう。そう、辞書は小説以上に感動を与えてくれることがある。「新解さん」(赤瀬川原平)でも語られている。