バーチャルクライマー

「灰色の北壁」(真保裕一)を読み終えた。黒部の羆、灰色の北壁、雪の慰霊碑の3作。新田次郎の「点の記」以来の久々の山岳ものだ。しかも新田次郎文学賞受賞作なのだ。

新田次郎の山岳ものはほとんど読んでいる。かれこれ20年以上前から読んでいることになる。私もクライマーの端くれである。山があれば登りたい。ただし、ほとんど新田次郎の世界の中だけのバーチャルクライマーではある。だが単に読むだけではない。まず山岳ものは冬に読むことにしている。少なくとも手や足がかじかむような寒さの中で冬山に挑むのだ。暖かい夏や、暖かい部屋のなかで新田次郎を読むなど考えられない。そんな人には山岳小説を読む資格はないと言い切ってよい。

また、読み終わった後は山岳地図でルートを確認し、ここの小屋で一泊し、この尾根から滑落したのかなどと復習するのだ。昭文社や山渓などの地図はかなり取り揃えている。バーチャルクライマーたる所以である。

だが私もバーチャルなままではいかんと思い、実際に山に登ることを決意したことがある。10年くらい前のことだ。まず最初に制覇することにしたのは関東の霊峰高尾山(599m)だった。勿論、ケーブルカーなど使う訳がない。次は御岳山。これは何かに乗って登ったかも・・・。さらに鷹取山。勿論ロッククライミングなどの練習ではない、岩場を素通りしただけではあるが雰囲気は掴んだ。このあたりから本格化し、丹沢に通い始めた。最初は大山(おおやま、1252m)、さらにはヤビツ峠から三の塔、塔の岳(1452m)を制覇した。丹沢くらいと甘く見てはいけない。死者も出ている。新田次郎も戒めている。私も塔の岳のときは7時間半歩いて帰路は疲労で死にそうだった。その上、バスも小田急も混んでいて座れもしない。へとへとだったのを覚えている。

海外では、アルプスのゴルナーラード(3130m)、ユングフラウヨッホ(3454m)、エギュイ・デュ・ミディ(3842m)などを制覇した。あまり知られていないところでは、なんとヒマラヤの世界第3の高峰カンチェン・ジェンガ(8586m)、の近くにあるタイガーヒル(2590m)に登ったことがある。