MKS Integrityのマニュアルを眺めてみた。

MKS Integrityのマニュアルを入手したので読んでみた。結構、しっかり記述されている。半分ぐらいは日本語にも訳されている。ドキュメントはサーバー/管理者、クライアント/ユーザー、CLIの3つに分類される。CLIは、Commandline Interfaceのことだ。MKS Integrityは、GUIで行える操作のほとんどがCLIのコマンドでも行える。


+-- 管理者/サーバーガイド
| +-- ServerInstallConfigGuide.pdf // サーバーインストールと設定 (日本語有)
| +-- ServerAdministrationGuide.pdf // 管理者マニュアル (日本語有:434ページ)
| +-- DeployAdministrationGuide.pdf // フェーズごとのリリース管理ガイド (日本語有)
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+-- ユーザー/クライアントガイド
| +-- ClientGettingStartedGuide.pdf // クライアントインストールと設定 (日本語有)
| +-- UserGuide.pdf // ユーザーマニュアル (日本語有:518ページ) 
| +-- GatewayUserGuide.pdf // インポート/エクスポート
| +-- IntegrationsBuilderGuide.pdf // APIの利用ガイド (日本語有)
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+-- CLIリファレンスなど
| +-- AdminCLIReference.pdf // 管理者用CLI
| +-- IntegrityCLIReference.pdf // ユーザー用CLI
| +-- DeployCLIReference.pdf // フェーズごとのリリース管理用CLI
| +-- SourceCLIReference.pdf // 構成管理/トレーサビリティ用CLI
| +-- WebServicesReference.pdf // WEBサービスガイド
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+-- リリースノート (日本語有)

MKS Integrityで何が行えるかは、勿論、ユーザーマニュアルを読む必要がある。とりあえず、ReqIFと絡めてMKS Integrityへのデータのインポート/エクスポートの部分について知りたかったので「GatewayUserGuide」というドキュメントを中心に眺めてみた。MKS Integrityでは文書交換のためのフォーマットを「アイテム交換フォーマット(IIF)」と呼んでいる。MKS Integrityは要求や仕様だけを扱う訳ではなく、設計、実装、テスト、運用でのさまざまなアイテムを扱えることになっている。構成管理のアイテムといっていい。アイテム間の関係を「トレースの関連付け」と呼んでいる。通常なら「アイテム間の関係」で済ませるところをあえて「トレースの関連付け」と呼ぶことは、MKS Integrityがトレーサビリティ管理ツールであることの強調だろう。

まず、MKS Integrityがどんな位置づけのツールなのか整理しておこう。

MKS Integrityの位置づけ

MKS Integrityは、ALMツール(アプリケーションライフサイクル管理ツール)だそうだ。アプリケーションと言っているがソフトウェアと換言してもいい。MKS社は、2011/06にPTC社に買収された。PTC社はPLMツール(プロダクトライフサイクル管理ツール)を売りにしている。PLMは、メーカーで開発される製品のハード/ソフトを含めて統合的に扱える。MKS Integrityは、PLMの中でソフトウェアの開発・保守のライフサイクルを強化したものになる。

メーカーにとっては、基幹系のERPと同等に製品開発のPLMが重要となってきている。ERPが各業務のオペレーション管理であるのに対して、PLMは「戦略」を担う。MKS Integrityは、一貫したコンセプトのもとに開発されたシングルアーキテクチャであり、競合するIBMやHPの寄せ集めALMソリューションとは異なることが強調されている。シングルアーキテクチャにより、ソフトウェア開発作業での協調性や可視性が向上し、コンプライアンス対応(ISO26262機能安全規格への対応など)が容易であるそうだ。安価なツールではない。大きなメーカーしか相手にしていないようだ。ERPと同様にPLMやALMを導入した企業は、初期投資だけでなく、毎年かなりの保守費用が請求されるはずだ。しかもERPと同様にひとたび導入したら、ほぼ一生抜けられないというモデルになるのだろう。実際には、小さく導入して徐々に拡張していく、導入プロセスが提示されてはいる。


+-- ERP
+-- PLM (プロダクトライフサイクル管理)
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+-- ALM (アプリケーションライフサイクル管理)
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+-- シングルアーキテクチャALM
| +-- MKS Integrity
+-- 寄せ集めALM
+-- IBM Rational (DOORSを含む)
+-- HP Mercury

MKS IntegrityでのRIFやReqIFの対応

話を戻す。MKS Integrityのマニュアルを眺めても、RIFやReqIFといったキーワードは全く出てこない。MKS Integrityへのインポート/エクスポートはいろいろなフォーマットで行えるようだが、XML表現のIIF(アイテム交換フォーマット)に変換してやり取りされる。MKS Integrityは要求・仕様に特化している訳ではなく、設計、実装、テスト、運用でのさまざまなアイテムを包含して扱える。高機能な構成管理ツールをイメージした方がいいのかもしれない。IIFは、MKS Integrity独自のフォーマットである。とはいえ、要求・仕様に関してはRIFとの交換ができるだろうし、ReqIFの策定にIIFは大きく影響を与えたはずだ。XMLスキーマはかなり類似している。

MKS Integrityでは、WORDでのインタフェースが強調されている。ReqIF要件に挙げられている書式付テキスト、階層表現、埋め込みドキュメントの参照についても、詳しく説明されている。WORDで作成された要求文書は、MKS Integrityのクライアント上でIIFのフォーマットに変換し、そのIIFファイルをMKS Integrityのサーバーにインポートする手順となる。また、WebインタフェースとGUIの両方にExcelへのエクスポート機能がある。検索結果をEXCELにエクスポートすることもできる。たとえば、MKS Integrityのサーバーからエクスポートして生成されたIIFファイルを、MKS Integrityのクライアント上で特定の文書形式(Excelなど)に変換できる。インポート/エクスポートではWizardが用意され、ファイル形式、パーサーなどを指定することで構文チェックが行われ、問題なければインポート/エクスポートが実施される。

MKS Integrityのインタフェースは、XML表現のIIFである、MKS Integrityの規約にしたがって作成したWORD文書をクライアント側でIIFに変換してサーバーにインポートする。同様に、RIFやReqIFで作成された要求文書も一旦クライアント側でIIFに変換して、サーバーにインポートされるものと思われる。マニュアル上での説明が見当たらないが、ネット上でアナウンスされている情報から、そういったオプションがあるのだろう。RIFやReqIF対応の文書交換ツールが登場した場合、文書交換ツールの規約にしたがって作成されたWORDをRIFやReqIFに変換し、それをさらにIIFに変換するという手順になるのだろう。

中途半端なReqIF

専用の要求記述ツールがReqIFに対応することのメリットはあるだろう。しかし、メーカーで実際に導入されるであろうALMツールやトレーサビリティ管理ツールなどをみると、要求や仕様といったアイテムは扱うべきアイテムのほんの一部でしかない。これらの包括的なツールでは、当然、要求や仕様以外のアイテムも扱わなければならず、そこではXMIやIIFなどのフォーマットでなければ間に合わない。RIFやReqIFと、XMIやIIFの一部とを相互に変換できる必要があるが、ALMツールベンダにとっては面倒なものが増えたくらいの感覚かもしれない。対応が遅すぎる感じだ。